PsychoPy Coderチュートリアル
いきなりやってみるタイプのCoderチュートリアル
はじめに
想定している読者層
このチュートリアルでは、以下のタイプの読者を想定しています:
実験プログラムを書かなきゃいけなくなった心理学(特に社会心理学)系の学部生
卒論で(いきなり1)心理学実験のプログラムを書かなくちゃいけなくなった人
Pythonの初心者本は一通り読んだけど、いざPsychoPyになるとよくわからない人
Coderのどこから手を着ければいいかわからない人
せっかくやるならBuilderじゃなくてCoderがいい、でもよくわからない、という人
CoderにDemosってやつがあるらしいけど、英語を読むことに苦手意識がある(あるいは、Demosの存在を知らない)という人
時間がない人
既に公開されている優れたチュートリアル
PsychoPyのCoderについては、既に優れたチュートリアルがいくつか公開されています(参照:PsychoPy Coderによる心理学実験作成チュートリアルまとめ)。この「チュートリアルまとめ」、およびそこで紹介されているチュートリアルのいずれにおいても、Pythonの初歩から実験実施までが丁寧に解説されています。
このチュートリアルの特色(?)
このチュートリアルでは、Pythonの初歩の説明をすっ飛ばします。上で紹介した記事も含め、もっと優れた資料や書籍が山のようにあるからです。
その代わりに、(社会)心理学の実験で割と使うと思われる機能に絞って話を進めます。くわえてこのチュートリアルでは、最初から完成したコードを見て、それを順に解説していくという方針を取ります。「該当するコードをコピペしていけば、自分の実験も書けるんじゃないか?」と思ってもらえることを狙っています。
主に説明するのは以下の機能です:
- ダイアログボックス
- データをCSVに記録
- テキスト刺激の呈示
- キー押しの検出
- クリックの検出
- 反応時間の計測
- マウスやキー押しに応じて刺激の色を変える
- 反応に応じたフィードバック etc.
このチュートリアルの試みがどこまでうまくいくかわかりませんが、とりあえずセットアップしてみましょう。
いきなりやってみるタイプのチュートリアル
いきなりセットアップ
- この記事ではMacとPsychoPy 2020.2.3を使ってます。この際なので、PsychoPyをアップデートしてください。
- https://github.com/kirikuroda/psychopy_coder_demoからファイルをダウンロードして、PCの適当な場所に保存してください。
いきなり実験
先ほどダウンロードした
psychopy_coder_demo.py
を、PsychoPy Coder(Experiment Runner)で実行してください。すると、短い課題が画面に表示されます。この課題を解説していくので、まずは課題をやってみてください。1分で終わります。
(Macで)以下のようなエラーが出る場合は、こちらのページ(英語)を参考にしてください。
/hid.pyc”, line 137, in init File “psychtoolbox/hid.pyc”, line 145, in _create_queue File “psychtoolboxFileNotFoundError: [Errno 2] No such file or directory
実験の構造
実験は終わりましたか? 実験の構造を確認しましょう:
- 参加者のIDを入力
- 教示が表示される
- Startをクリックすると課題が始まる
- 最初に試行数が表示される
- 次に都市名が表示される
- どちらの都市の人口が多いかをFかJで回答する
- 何もせずに5秒以上経つと「Hurry up!」が表示される
- FかJを押すと、選んだ方の都市が黄色くなり、四角で囲まれる
- 正解不正解のフィードバックが表示される
- (裏でその試行のデータが記録される)
- ※4〜10を繰り返す
- 実験終了のメッセージが表示される
では、コードを順になぞっていきます。
解説
ダイアログボックスを呈示する(38–46行目)
# ダイアログボックスを呈示し、参加者の情報を入力
= {"subj_id": "", "add_here_what_you_want": ""}
subj_info = gui.DlgFromDict(subj_info, order = ["subj_id", "add_here_what_you_want"])
dialogue_box
# OKならID(subj_id)を記録して実験を進める。キャンセルなら実験を中止
if dialogue_box.OK:
= subj_info["subj_id"]
subj_id else:
core.quit()
参加者の情報を入力するためのダイアログボックスを呈示しています。
add_here_what_you_want
と書いてあるように、他に記録したい情報がある場合は、後ろに付け足してください。
データファイルの名前を作る(52–67行目)
# 現在日時を記録
= data.getDateStr("%Y%m%d%H%M%S")
exp_date
# データファイルを保存するフォルダを作る
# フォルダがなければ作る
try:
"data/csv")
os.makedirs("data/log")
os.makedirs(# フォルダが既にある場合は何もしない
except OSError:
pass
# データファイルの名前を作る(ID_日付)
= subj_id + "_" + exp_date
file_name = os.path.join("data/csv/" + file_name + ".csv")
file_name_csv = os.path.join("data/log/" + file_name + ".log") file_name_log
参加者のIDと現在日時からファイル名を作っています。プログラムを実行した日時は、何らかの形で記録しておくようにしましょう。
CSVファイルに行動データ、logファイルに実験のログを記録することにします。
クイズの項目を読み込む(69–70行目)
# クイズの項目(都市名、人口)を読み込む
= pd.read_csv("city.csv") city
この実験課題で呈示する項目(CSVファイル)を読み込んでいます。
画面、マウス、キーボードを設定する(76–80行目)
# 画面の座標系 units = "norm"
# 画面中心が(0, 0)、X軸が-1〜+1、Y軸が-1〜+1
= visual.Window(width = 1200, height = 900, units = "norm")
win = event.Mouse()
mouse = keyboard.Keyboard() kb
PsychoPyでは、ふつうスクリーンをwin
として記録します。
都市名刺激を設定する(86–103行目)
# テキスト刺激の色と日本語フォント
= "white", "yellow"
color_default, color_highlight = "ヒラギノ角ゴシック W3"
font_ja
# 刺激(都市名) textは毎試行変わるので、後で定義
= visual.TextStim(win, font = font_ja)
city_1_text = visual.TextStim(win, font = font_ja)
city_2_text
# 刺激の呈示位置のカウンターバランス
# 都市名をX軸方向にどれくらいずらすか
= 0.5
city_nudge_x # 4試行のカウンターバランスをcity_posとして保存
= ["one_two", "one_two", "two_one", "two_one"]
city_pos # city_text_posを並び替える
= np.random.permutation(city_pos)
city_pos
# 試行の順序をランダマイズする。trial_order: [3, 2, 0, 1]のようになる
= np.random.permutation(range(len(city))) trial_order
テキスト刺激はvisual.TextStim()
で作ります。日本語フォントは好きなものに修正してもらって構いません。
ここでは、呈示位置のカウンターバランスと、試行順序のランダマイズもしています2。
キーを設定する(105–112行目)
# キー設定
= "f", "j"
key_left, key_right
# 押すべきキーの名前(課題中に呈示しておく)
# キーのテキストをY軸方向にどれくらいずらすか
= 0.5
key_text_nudge_y = visual.TextStim(win, text = "F", pos = (-city_nudge_x, key_text_nudge_y))
key_left_text = visual.TextStim(win, text = "J", pos = (city_nudge_x, key_text_nudge_y)) key_right_text
Fが左、Jが右に対応するようにしています。
また、課題中に呈示する「F」と「J」の刺激もここで作っています。
教示を定義する(114–121行目)
# 教示を定義
= visual.TextStim(win, alignText = "left", anchorHoriz = "center")
inst_text """
inst_text.setText(Which city has a larger population?
Select the city by pressing the F or J of the keyboard.
Click "Start" and work on the task.
""")
教示を作っています。日本語だと少しめんどくさいので、英語で書いています。
.setText()
を使うと、TextStim
にテキストを埋め込むことができます。
Startボタンを定義する(123–129行目)
# ボックスの線の太さ
= 10
box_line_width
# 開始ボタンのボックスとテキスト
= -0.5 # Y軸座標
start_pos_y = visual.Rect(win, width = 0.2, height = 0.2, pos = (0, start_pos_y), lineWidth = box_line_width)
start_box = visual.TextStim(win, text = "Start", pos = (0, start_pos_y)) start_text
Startボタンを定義しています。四角形はvisual.Rect()
で作ります。
その他のテキスト刺激や図形を定義する(131–157行目)
# 試行間で呈示するテキスト(テキストの中身は毎試行変えるので、後で定義する)
= visual.TextStim(win)
iti_text # ITIの長さ
= 2
iti_length
# どちらの都市名を選んだかを何秒呈示するか
= 1
confirmation_length # 選んだ方の都市を囲うボックスを定義
= 0.5, 0.2 # ボックスのサイズ
city_box_width, city_box_height = visual.Rect(win,
city_box_left = city_box_width, height = city_box_height, pos = (-city_nudge_x, 0),
width = color_highlight, lineWidth = box_line_width
lineColor
)= visual.Rect(win,
city_box_right = city_box_width, height = city_box_height, pos = (city_nudge_x, 0),
width = color_highlight, lineWidth = box_line_width
lineColor
)
# 正解不正解のテキスト
= visual.TextStim(win, text = "Correct!")
correct_text = visual.TextStim(win, text = "Wrong...")
wrong_text = 1
feedback_length
# プロンプトのテキスト
= visual.TextStim(win, text = "Hurry up!", pos = (0, 0.8), color = color_highlight)
hurry_text # time_limit秒経過したらプロンプトを出す
= 5 time_limit
その他のテキスト刺激や図形を定義しています。
ログファイルを設定する(163–164行目)
# ログファイルの設定
= logging.LogFile(file_name_log, level = logging.EXP) file_log
ログファイルを設定しています。実験中に何が起きたかをほぼ自動で記録してくれるので、設定しておくことをおすすめします。
教示を呈示する(170–190行目)
# 教示(無限ループ)
while True:
# Startにカーソルが載ってたら黄色に
if start_box.contains(mouse):
start_box.setLineColor(color_highlight)
start_text.setColor(color_highlight)# 載ってなければ白に
else:
start_box.setLineColor(color_default)
start_text.setColor(color_default)
# 教示とボックスを描画
inst_text.draw()
start_box.draw()
start_text.draw()
win.flip()
# 開始ボタンがクリックされたら無限ループを抜ける
if mouse.isPressedIn(start_box):
break
教示を呈示しています。刺激をdraw()
してからwin.flip()
するのが基本です。
Startボタンにカーソルが載ったら色を変えるようにしています。これを応用すると、マウスの位置を記録することができます。
Startボタンがクリックされたらループを抜けます。
CSVファイルの1行目に変数名を書き込む(192–199行目)
# CSVファイルの先頭行に変数名を書き込む
with open(file_name_csv, "a", encoding = "cp932") as f:
= csv.writer(f, lineterminator = "\n")
writer
writer.writerow(["subj_id", "trial", "city_1", "city_2",
"population_1", "population_2", "choice",
"correct_answer", "result", "rt", "key", "pos"
])
CSVファイルに変数名を書き込んでいます。データを記録するときは、この書き方を真似するのがおすすめです。
カーソルを消して課題を始める(205–215行目)
# カーソルを消す
False)
mouse.setVisible(
# 課題開始
for trial_index in range(len(city)):
# 試行間のテキストを定義して描画
str(trial_index + 1) + "/" + str(len(city)))
iti_text.setText(
iti_text.draw()
win.flip() core.wait(iti_length)
カーソルを消してから、試行のループに移っています。
iti_text
を定義し、呈示しています。
core.wait(秒数)
で、プログラムを指定時間止めることができます。
都市名を呈示(217–244行目)
# 刺激テキストをセット
= city["city_1"][trial_order[trial_index]]
city_1 = city["city_2"][trial_order[trial_index]]
city_2
city_1_text.setText(city_1)
city_2_text.setText(city_2)
# ついでに人口と正解も記録しておく
= city["population_1"][trial_order[trial_index]]
population_1 = city["population_2"][trial_order[trial_index]]
population_2 if population_1 > population_2:
= "city_1"
answer else:
= "city_2"
answer
# 刺激の位置のカウンターバランス
if city_pos[trial_index] == "one_two":
-city_nudge_x, 0))
city_1_text.setPos((0))
city_2_text.setPos((city_nudge_x, else:
0))
city_1_text.setPos((city_nudge_x, -city_nudge_x, 0))
city_2_text.setPos((
# 刺激を描画
city_1_text.draw()
city_2_text.draw()
key_left_text.draw()
key_right_text.draw() win.flip()
都市名刺激を定義・描画したり、課題に関連するデータを記録したりしています。
.setPos()
を使うと、刺激の呈示位置を変更することができます。
開始時間を記録し、キーボードをリセット(246–251行目)
# 回答を待ち始めた時間をresp_onsetとして記録
= core.Clock()
resp_onset
# キー押しをリセット
= False)
kb.getKeys([key_left, key_right], waitRelease kb.clock.reset()
刺激呈示の開始時間を記録し、キーボードをリセットしています。
ここでキーボードをリセットしないと、次の試行にキー押しが引き継がれてしまいます。忘れないようにしましょう。
回答を待つ(253–318行目)
# 回答を待つ(無限ループ)
while True:
# FかJのキー押しを待つ
= kb.getKeys(keyList = [key_left, key_right], waitRelease = False)
key_pressed
# もしFかJが押されたら
if len(key_pressed) > 0:
# 反応時間を記録
= key_pressed[0].rt
rt
# どっちのキーを押したかをkeyとして記録
# カウンターバランスに応じて、どっちの都市を選んだかをchoiceとして記録
if key_pressed[0].name == key_left:
= key_left
key if city_pos[trial_index] == "one_two":
= "city_1"
choice else:
= "city_2"
choice else:
= key_right
key if city_pos[trial_index] == "one_two":
= "city_2"
choice else:
= "city_1"
choice
# 結果を記録
if choice == answer:
= "correct"
result else:
= "wrong"
result
# 選んだ方の都市名を黄色にする
if choice == "city_1":
city_1_text.setColor(color_highlight)else:
city_2_text.setColor(color_highlight)
# 選んだ方の都市を囲う四角を描画
if key == key_left:
city_box_left.draw()else:
city_box_right.draw()
# その他の刺激も描画して、1秒間呈示
city_1_text.draw()
city_2_text.draw()
key_left_text.draw()
key_right_text.draw()
win.flip()
core.wait(confirmation_length)
# 刺激の色をリセットし、無限ループから抜ける
city_1_text.setColor(color_default)
city_2_text.setColor(color_default)break
# ※time_limitを過ぎたらプロンプトを出す
if resp_onset.getTime() > time_limit:
city_1_text.draw()
city_2_text.draw()
key_left_text.draw()
key_right_text.draw()
hurry_text.draw() win.flip()
回答を待ちます。反応があったらテキストを黄色にし、四角で囲みます。5秒経過したらプロンプトを出すようにしています。
コードは長めですが、ここでのキー押し判定や条件分岐は汎用性が高いです。というか、ほとんどの実験はこういう(長い)パーツの組み合わせからできています。
フィードバックをし、各試行のデータを記録(320–338行目)
# 正解不正解のフィードバックを呈示
if result == "correct":
correct_text.draw()else:
wrong_text.draw()
win.flip()
core.wait(feedback_length)
# CSVファイルにデータを記録
with open(file_name_csv, "a", encoding = "cp932") as f:
= csv.writer(f, lineterminator = "\n")
writer
writer.writerow([
subj_id, trial_index, city_1, city_2,
population_1, population_2, choice,
answer, result, rt, key, city_pos[trial_index]
])
# ログファイルを保存
logging.flush()
正解不正解のフィードバックを出してから、データを記録しています。
なお、ここでは日本語(都市名)を記録しているので、encoding = "cp932"
としていますが、ふつうは要らないです。
実験終了(344–355行目)
# 終わりの画面を定義
= visual.TextStim(win)
finish_text """
finish_text.setText(Finish! Thanks!
""")
# 3秒呈示してから実験終了
finish_text.draw()
win.flip()3)
core.wait(
win.close() core.quit()
終了のメッセージを出して、3秒経過したら実験が終わります。
おわりに
このチュートリアルでは割愛した内容もあります。その中で最も重要なものは「関数の自作」です。関数の自作については、PsychoPy Coderによる心理学実験作成チュートリアルまとめの第7回を読んでください。
おそらく、このチュートリアルはわかりにくいです。しかし、ここに載っている機能を使えば、大体の社会心理学実験や意思決定実験のたたき台を作ることはできると思います3。かなり駆け足でしたが、このチュートリアルが誰かの役に立てば幸いです。