学会の発表資料を作るときに参考になった本

プレゼンの道はまだまだ長いが、とりあえずこれは読んで良かったという個人的セレクト

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はじめに

今年は、色々と参考になるプレゼン本にめぐり会えました。そこで、これまで読んだ本の中で参考になったものをリストアップしておきます。

なお、ネットにも色々な情報は載っていますが、本のほうが体系的にまとまっているので、結局は買ったほうが早いという印象です。


スライドのデザイン・構成

感覚にまかせるのではなく、ある程度の知識をもってスライドを作ると、より自信を持てるようになると思います。


『一生使える見やすい資料のデザイン入門』

『見やすいプレゼン資料の作り方』というスライドの書籍版です。今年の夏に出会いました。

スライドを作る上で基本的なことがまとまっていたり、かゆいところに手の届くパワポの機能が紹介されたりしているので、とりあえず読んでおいて損はないと思いました。ちなみに、Amazon Primeに加入しているとKindle版を無料で読めます(2020年12月27日現在)。


『伝わるデザインの基本 増補改訂版 よい資料を作るためのレイアウトのルール』

『伝わるデザイン 研究発表のユニバーサルデザイン』というウェブサイトの書籍版です。

最初に紹介した『一生使える見やすい資料のデザイン入門』よりも研究者向けに書かれていて、かつ説明が丁寧な雰囲気があります。また、おそらくウェブサイト版よりも情報が豊富です。

この本は3〜4年前に買いましたが、今でも買って良かったと思います。発表資料を作る上で、これはマストで読んだほうが良いとおすすめできる1冊です。


『できる研究者のプレゼン術 スライドづくり、話の組み立て、話術』

“Better Presentations: A Guide for Scholars, Researchers, and Wonks"という本の日本語版です。今年の夏に原著を買おうとしたら、この日本語版(2020年3月出版)を見つけました。

これは、上で紹介した『伝わるデザインの基本』の次に読むべき本という感じです。『伝わるデザインの基本』は十分素晴らしいですが、その教えを忠実に守るだけだと、良くも悪くもデザインや構成が大人しくなってしまう気がします。つまり「デザインを全く考えていない悲惨なスライド」よりは改善されるものの、「聴衆をグイグイ惹きつける」まではいかないかもしれない、ということです1

この『できる研究者のプレゼン術』で紹介されているデザインやテクニックは、『伝わるデザインの基本』より洗練された雰囲気を醸し出しています2。もう少し上のレベルを目指したい人(まさに今の私)におすすめの1冊です。


“English for Presentations at International Conferences (Second Edition)”

著者はアカデミックライティングを教えている人で、これまでに多くのライティング本を出版しています。この"English for Presentations"もその1つとして書かれたものです。実際にこの本でも「どういうセリフを言ったり、どういう文章をスライドに載せたりするべきか」を教えてくれます。

ただ個人的には、むしろプレゼンの構成について有意義なアドバイスを提示していると思いました。なお『できる研究者のプレゼン術』がデザインにウェイトを置いているのに対し、“English for Presentations"は、プレゼンの構成や聴衆とのコミュニケーションに関するパートが手厚いです。英語に関する本ですが、日本語の発表でも使える考え方やテクニックが載っています。


データビジュアライゼーション

多くのプレゼン本は、スライドにおける視覚的要素(図表・デザイン)の重要性を強調しています。データビジュアライゼーションのオタクになる必要はないですが、その基礎は押さえておいたほうが良いと思います。


“Fundamentals of Data Visualization”

Fundamentals of Data Visualization

データビジュアライゼーションで大事なポイントをまとめたウェブサイトです。同名の書籍もあります。中身は英語ですが、悪いグラフと良いグラフを対比させながら説明してくれているので、そこまでしっかり文章を追わなくても理解できます。

この本の最大の特徴は「データビジュアライゼーションのツールについては説明していない」という点にあります。この方針はもしかすると不親切かもしれないですが、ツールを問わず適用できるので、汎用性(学習効果)は高いです。

また著者は、グラフの正確さやわかりやすさだけでなく、美醜という点も評価の対象にしています。「正しいしわかりやすいかもしれないけど、見ていて微妙な気持ちになるグラフ」というのはたしかに存在するので、これは重要な観点だと思います。

とりあえずこれさえ読んでおけば間違いないという1冊です。


『Rグラフィックス クックブック 第2版 ggplot2によるグラフ作成のレシピ集』

R Graphics Cookbook, 2nd editionというウェブサイト(本)の日本語版書籍です。

データビジュアライゼーションではどんなツールを使ってもいいと思いますが、私はRのggplot2を使っています。これを一通り写経すれば、ggplot2はかなり身につくと思います。またサンプルが豊富なので、グラフの引き出しが自分の中で増えるはずです。1つのスライドや論文で同じ形式のグラフを繰り返し使うと野暮ったくなるので3、引き出しが多いのに越したことはないです。


おわりに

COVID-19の影響で、今年自分が参加した学会はすべてオンライン開催でした。オンライン学会ではスライドがウェブサイト上で公開され、いつもよりじっくり吟味できる/される気がしました。

「観たい発表を自発的に選べる」という今の学会形式がしばらく続くとすると、これまで以上に発表のわかりやすさと面白さが求められるようになると思いました(つまらなくわかりにくい発表だと、閲覧すらされない可能性があるということです)。もちろん、見た目やデザインの良し悪しと研究内容の良し悪しは独立にジャッジすべきという考えもあると思いますし、その考えに共感もします。一方で「それならデザインも内容も良ければOKじゃないか?(脳筋的発想)」という気もしています。なかなか難しい問題です。

ただ、プレゼン本を読んでいると、発表のデザインや構成を考えるのが少しずつ楽しくなってきたのも確かです。今後も精進しようと思います。


  1. あくまで個人的意見です。もちろん、自分の発表もまだその境地には達していないです。 ↩︎

  2. 「洗練された雰囲気」は完全に私の主観にすぎないですが、結局スライドの見た目はそういう感覚の問題であるとも思います。 ↩︎

  3. これは"Fundamentals of Data Visualization"の教えの1つです。 ↩︎

関連項目